家庭用ゲーム機業界では今なお絶大な威厳と実力を誇る任天堂。その任天堂の家庭用携帯型ゲーム機ニンテンドー3DSの販売動向について、当サイトでは同社の四半期決算短信の発表とともに、その内容を精査していた(【定期更新記事:ニンテンドー3DS販売動向(任天堂)】)。一方同社では短信とは別に、随時ライブラリーの【ヒストリカルデータ】において、経年の各種計算書だけでなく、主要販売機種販売台数と対応ソフトのタイトル数についてもデータ化して公開を行っている。今回はその公開値を用い、任天堂発のゲーム機に関してその販売動向をグラフ化し、状況の精査を試みることにする。まずは「主要ハード編」とし、ハードウェアにスポットライトを当てることにしよう。
まずは現在公開されている最新値となる、2024年3月末時点の累計ハード販売実績。据置型は次の通り。なお以下の値は累積販売台数で、現在稼働台数ではないことに注意。またNintendo Switch Liteは仕様的には携帯型ゲーム機だが、据置型ゲーム機Nintendo Switchの廉価モデルであることや、公開資料の上ではNintendo Switchの1バージョンとして扱われているため、据置型ゲーム機としてグラフに反映する。
↑ 任天堂ハード・累計販売実績(据置型、万台)(2024年3月末時点)
意外なのは稀代の名ゲーム機ファミリーコンピュータ(ファミコン)以上に、Wiiが売れていること。日本国内で限定すればファミリーコンピュータの方が上だが、全世界で計算するとほぼ6割増しでWiiの累積販売台数が多い。
また、横軸は左から右へ行くほど販売された年代が新しいものとして配置しているが、ファミリーコンピュータの販売以降スーパーファミコンも合わせ、ハードの販売台数が漸減していたのが分かる。ハードの台数がソフトの売れ行きに大きく影響する事実を考えれば、Wiiの直前まで「据置型ハードでは」任天堂が苦戦を強いられていたのが見て取れる。
なお一番右、つまり一番新しいNintendo Switchは日本のみ・全世界双方ともに、旧世代機であるWiiの実績を抜き、据置型ではトップの値となっている。Nintendo Switchの勢いの実態が改めて認識できる。
続いて携帯型ゲーム機。
↑ 任天堂ハード・累計販売実績(携帯型、万台)(2024年3月末時点)
御承知の通りニンテンドーDSと3DSは何度かマイナーバージョンアップが行われているため、そのうち「Lite」「DSi」「DSiLL」、「3DS LL」「2DS」「New 3DS」「New 3DS LL」「New 2DS LL」は別途数字を掲載している。ゲームボーイやニンテンドーDSの市場がいかに大きいか、そしてニンテンドー3DSへの期待がどれほどのものだったのかがすけて見える。
以上は「累計」販売台数の状況だが、これを日本国内に限定した上で、「年次」の販売推移で見たのが次のグラフ。要は毎年どれくらいの数のハードが販売されたかを見たものである。例えばNintendo Switchなら2024年3月末期(2023年4月-2024年3月)は441万台となる。
↑ 任天堂・国内ハード販売動向(日本国内、年次、万台)
↑ 任天堂・国内ハード販売動向(日本国内、累計、万台)
ゲームキューブやWii Uのような例外もあるが、任天堂のハードはおおよそ発売2年目から3年目に年次セールスのピークを迎え、後は漸減する流れを見せている。これは任天堂に限らず他のハードにも当てはまることで、よほどのテコ入れや状況の変化がない限り、発売後しばらくしてから盛り返すことは考えにくい。
また、少なくとも年間1万台以上のセールスを打ち出すまでが「商品生存期間」と想定すると、大体6年から7年がハード上の寿命(累計グラフでほぼ横ばいになったあたりが「寿命」といえる)であることが予想できる。
ただし昨今は技術開発速度や娯楽上の競合他メディア(現状ならばスマートフォンなどの携帯電話)の進歩発展スピードの加速化に伴い、この「6年から7年」が縮小する傾向がある。一方で最近のハードではニンテンドー3DSの「寿命」が2020年3月末期あたりと判断できるが、かなり長持ちした方ではある(発売開始から10年目までは年間1万台以上のセールスが確認できている)。
他方Wii Uはゲームキューブと似たような動向を示していたが、2016年3月末期では大きく盛り返した。これは多分に社会現象まで巻き起こしたソフト「スプラトゥーン」によるところが大きいと考えれば道理は通る。ただしそれに続く、ハードのセールスを後押しするタイトルが無かったため、次年の2017年3月末期では大きく落ち込み、それ以降は累計台数の上乗せは確認できない。
Nintendo Switchの初年度台数は60万台、そして378万台、385万台、521万台と続き、そして2021年3月末期では660万台とさらに台数を上乗せした。過去のハードの販売動向には見られない傾向で、販売から5年目で年次セールスの最大値を示している。携帯型ゲーム機的なNintendo Switch Liteの値も内包していること、そして新型コロナウイルスの流行による巣ごもり傾向が勢いを後押ししたのだろう。直近の2024年3月末期では前年度からいくぶん値を上乗せして441万台となっている。累計販売台数は3401万台となり、ニンテンドーDSの3299万台を抜き、累計販売台数のトップとなった。
任天堂では2025年3月末期における全世界でのNintendo Switchのセールス予想を1350万台としているが(同社決算短信より)、これは2024年3月末期の実績1570万台を下回っているものの、その減少度合いは穏やかなものと判断できる。任天堂側では。Nintendo Switchのセールスはピークよりは落ちるものの、まだまだ堅調に推移すると見ているのだろう。
余興的な話になるが、日本国内の年次販売動向について少々切り口を変えたのが次のグラフ。時間軸を発売初年度からに揃えたもの(ニンテンドー64は1996年の発売で今件データには含まれていないので除外した)。
↑ 任天堂・国内ハード販売動向(日本国内、年次、発売開始年度揃え、万台)
やはりニンテンドーゲームキューブの特異性と、ニンテンドーDSの突っ走りっぷりが目にとまる。ニンテンドー3DSはニンテンドーDSやゲームボーイアドバンスとほぼ同じ動きを見せていたが、3年度目でやや勢いが落ち、4年度目以降で明らかな失速を見せ、DSには及ばないことがほぼ確定してしまった。ただし8年度以降ではDSを追い抜く形で売れ続けているのは興味深い。細かい内部的な機種の多様化が幸いしているのかもしれない。他方、Nintendo Switchのセールス動向のイレギュラーさ(販売台数のピークが5年度になっている、8年度に至ってもこれまでにない高水準を維持している)もあらためて確認できる。
過去のハードの発売時の環境と異なり、現在では携帯電話(特にスマートフォン)の躍進による、市場の「食い合い」が生じている。100%領域が重なっているわけではないが、多分に共通する部分は多く、影響がないことはありえない。人の時間は一人あたり1日24時間しかない。スマートフォンで遊びながら携帯型ゲーム機でも同時に遊ぶマルチタスクな曲芸は、ほとんどの人には不可能である。
日本国内で年間1万台以上の台数増加が示されているのは、現時点ではNintendo Switchのみ。他方、任天堂の広報用X(旧ツイッター)では2024年5月7日付で、今期中にNintendo Switchの後継機種に関するアナウンスを行うと発表した(【任天堂株式会社(企業広報・IR)アカウントの該当ポスト】)。
Nintendo Switchが今後どこまで躍進するのか、今後も推移を見守っていきたい。
■関連記事:
【任天堂とDeNAの業務資本提携とスマホアプリの展開、新ハードNXに関する所感】
【任天堂、ドワンゴの株式1.5%を取得】
【任天堂、Wiiの他社ソフト低迷について「制作に時間がかかる」「新ハードに慣れていない」と分析】
【Wiiは「家族で遊ぶハード」ではあるが……DSとの年齢階層の違い】
【ソフトハード合わせて国内市場規模は3774億円、プラスダウンロードが301億円…CESA、2022年分の国内外家庭用ゲーム産業状況発表(最新)】
現時点の累計販売台数
まずは現在公開されている最新値となる、2024年3月末時点の累計ハード販売実績。据置型は次の通り。なお以下の値は累積販売台数で、現在稼働台数ではないことに注意。またNintendo Switch Liteは仕様的には携帯型ゲーム機だが、据置型ゲーム機Nintendo Switchの廉価モデルであることや、公開資料の上ではNintendo Switchの1バージョンとして扱われているため、据置型ゲーム機としてグラフに反映する。
↑ 任天堂ハード・累計販売実績(据置型、万台)(2024年3月末時点)
意外なのは稀代の名ゲーム機ファミリーコンピュータ(ファミコン)以上に、Wiiが売れていること。日本国内で限定すればファミリーコンピュータの方が上だが、全世界で計算するとほぼ6割増しでWiiの累積販売台数が多い。
また、横軸は左から右へ行くほど販売された年代が新しいものとして配置しているが、ファミリーコンピュータの販売以降スーパーファミコンも合わせ、ハードの販売台数が漸減していたのが分かる。ハードの台数がソフトの売れ行きに大きく影響する事実を考えれば、Wiiの直前まで「据置型ハードでは」任天堂が苦戦を強いられていたのが見て取れる。
なお一番右、つまり一番新しいNintendo Switchは日本のみ・全世界双方ともに、旧世代機であるWiiの実績を抜き、据置型ではトップの値となっている。Nintendo Switchの勢いの実態が改めて認識できる。
続いて携帯型ゲーム機。
↑ 任天堂ハード・累計販売実績(携帯型、万台)(2024年3月末時点)
御承知の通りニンテンドーDSと3DSは何度かマイナーバージョンアップが行われているため、そのうち「Lite」「DSi」「DSiLL」、「3DS LL」「2DS」「New 3DS」「New 3DS LL」「New 2DS LL」は別途数字を掲載している。ゲームボーイやニンテンドーDSの市場がいかに大きいか、そしてニンテンドー3DSへの期待がどれほどのものだったのかがすけて見える。
単年と累計の経年推移で流れを見る
以上は「累計」販売台数の状況だが、これを日本国内に限定した上で、「年次」の販売推移で見たのが次のグラフ。要は毎年どれくらいの数のハードが販売されたかを見たものである。例えばNintendo Switchなら2024年3月末期(2023年4月-2024年3月)は441万台となる。
↑ 任天堂・国内ハード販売動向(日本国内、年次、万台)
↑ 任天堂・国内ハード販売動向(日本国内、累計、万台)
ゲームキューブやWii Uのような例外もあるが、任天堂のハードはおおよそ発売2年目から3年目に年次セールスのピークを迎え、後は漸減する流れを見せている。これは任天堂に限らず他のハードにも当てはまることで、よほどのテコ入れや状況の変化がない限り、発売後しばらくしてから盛り返すことは考えにくい。
また、少なくとも年間1万台以上のセールスを打ち出すまでが「商品生存期間」と想定すると、大体6年から7年がハード上の寿命(累計グラフでほぼ横ばいになったあたりが「寿命」といえる)であることが予想できる。
ただし昨今は技術開発速度や娯楽上の競合他メディア(現状ならばスマートフォンなどの携帯電話)の進歩発展スピードの加速化に伴い、この「6年から7年」が縮小する傾向がある。一方で最近のハードではニンテンドー3DSの「寿命」が2020年3月末期あたりと判断できるが、かなり長持ちした方ではある(発売開始から10年目までは年間1万台以上のセールスが確認できている)。
他方Wii Uはゲームキューブと似たような動向を示していたが、2016年3月末期では大きく盛り返した。これは多分に社会現象まで巻き起こしたソフト「スプラトゥーン」によるところが大きいと考えれば道理は通る。ただしそれに続く、ハードのセールスを後押しするタイトルが無かったため、次年の2017年3月末期では大きく落ち込み、それ以降は累計台数の上乗せは確認できない。
Nintendo Switchの初年度台数は60万台、そして378万台、385万台、521万台と続き、そして2021年3月末期では660万台とさらに台数を上乗せした。過去のハードの販売動向には見られない傾向で、販売から5年目で年次セールスの最大値を示している。携帯型ゲーム機的なNintendo Switch Liteの値も内包していること、そして新型コロナウイルスの流行による巣ごもり傾向が勢いを後押ししたのだろう。直近の2024年3月末期では前年度からいくぶん値を上乗せして441万台となっている。累計販売台数は3401万台となり、ニンテンドーDSの3299万台を抜き、累計販売台数のトップとなった。
任天堂では2025年3月末期における全世界でのNintendo Switchのセールス予想を1350万台としているが(同社決算短信より)、これは2024年3月末期の実績1570万台を下回っているものの、その減少度合いは穏やかなものと判断できる。任天堂側では。Nintendo Switchのセールスはピークよりは落ちるものの、まだまだ堅調に推移すると見ているのだろう。
余興的な話になるが、日本国内の年次販売動向について少々切り口を変えたのが次のグラフ。時間軸を発売初年度からに揃えたもの(ニンテンドー64は1996年の発売で今件データには含まれていないので除外した)。
↑ 任天堂・国内ハード販売動向(日本国内、年次、発売開始年度揃え、万台)
やはりニンテンドーゲームキューブの特異性と、ニンテンドーDSの突っ走りっぷりが目にとまる。ニンテンドー3DSはニンテンドーDSやゲームボーイアドバンスとほぼ同じ動きを見せていたが、3年度目でやや勢いが落ち、4年度目以降で明らかな失速を見せ、DSには及ばないことがほぼ確定してしまった。ただし8年度以降ではDSを追い抜く形で売れ続けているのは興味深い。細かい内部的な機種の多様化が幸いしているのかもしれない。他方、Nintendo Switchのセールス動向のイレギュラーさ(販売台数のピークが5年度になっている、8年度に至ってもこれまでにない高水準を維持している)もあらためて確認できる。
過去のハードの発売時の環境と異なり、現在では携帯電話(特にスマートフォン)の躍進による、市場の「食い合い」が生じている。100%領域が重なっているわけではないが、多分に共通する部分は多く、影響がないことはありえない。人の時間は一人あたり1日24時間しかない。スマートフォンで遊びながら携帯型ゲーム機でも同時に遊ぶマルチタスクな曲芸は、ほとんどの人には不可能である。
日本国内で年間1万台以上の台数増加が示されているのは、現時点ではNintendo Switchのみ。他方、任天堂の広報用X(旧ツイッター)では2024年5月7日付で、今期中にNintendo Switchの後継機種に関するアナウンスを行うと発表した(【任天堂株式会社(企業広報・IR)アカウントの該当ポスト】)。
Nintendo Switchが今後どこまで躍進するのか、今後も推移を見守っていきたい。
■関連記事:
【任天堂とDeNAの業務資本提携とスマホアプリの展開、新ハードNXに関する所感】
【任天堂、ドワンゴの株式1.5%を取得】
【任天堂、Wiiの他社ソフト低迷について「制作に時間がかかる」「新ハードに慣れていない」と分析】
【Wiiは「家族で遊ぶハード」ではあるが……DSとの年齢階層の違い】
【ソフトハード合わせて国内市場規模は3774億円、プラスダウンロードが301億円…CESA、2022年分の国内外家庭用ゲーム産業状況発表(最新)】